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学術都市アレクサンドリア [Intellectual History]

学術都市アレクサンドリア.jpg
野町啓
学術都市アレクサンドリア
講談社学術文庫 2010年 250頁

はじめに

序章 謎の古代都市アレクサンドリア
第1章 ムーセイオンと大図書館
第2章 メセナとしてのプトレマイオス朝
第3章 大図書館をめぐる学者文人たち
第4章 花開くペリパトス派の学風
第5章 哲学都市アレクサンドリア ユダヤ人フィロンとその周辺

文献案内をかねたあとがき
紀元前4~前1世紀の関連年表
解説(秦剛平)

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かつて講談社現代新書からでていたものの復刊。いくつかの修正をしているようなので、今後は文庫版を参照することになる。文庫版が出る前の新書版は結構な値段で古書市場に出回っていたので、文庫版の出版はとてもありがたい。文献案内も、学術的体裁を崩さず、一般読者にも配慮したものとなっている。

古代アレクサンドリアといえばかの図書館ばかりが著名である。もちろん図書館があったからこそであるが、とりわけヘレニズム期にあって、プラトンやアリストテレスの知識を継承する一大拠点となり、そその結果として新思想の生成地となった。新思想とは、ネオプラトニズムである。ある学者によれば、アレクサンドリアとは「ユダヤ人とギリシア人の町」だそうである。小著ではあるが、内容の情報密度が高く、値段分の価値はある。そもそも、日本語で読めるアレクサンドリアの知的風土の概論は、私の知る限り本書しかない。

以前通読していたのだが、そのときはこの本の価値がわからなかった。今回本書の情報を求めたのは、ヒュパティアをめぐる知的環境について知りたかったからである。ヒュパティアとは、この5世紀前後のアレクサンドリアを舞台に活躍した女性学者である。彼女は数学や哲学に通じていたといわれる(著作は失われたが、書簡が伝来しているようである)。彼女の名前がアイコン化しているのは、415年、キリスト教信仰の矛盾をついた彼女に激怒したアレクサンドリアのキリスト教徒が彼女を殺害したため、知的誠実さを曲げなかった悲劇の女性学者として称揚されているからである。その結果として、学術都市であったアレクサンドリアから学者たちが亡命をはじめ、知的中心地としてのアレクサンドリアは衰退の一途をたどった、とされる。

ヒュパティアに関して日本語で読める文献は限りなく少ないが、マーガレット・アーリク(上平初穂他訳)『男装の科学者たち ヒュパティアからマリー・キュリーへ』(北海道大学出版会 1999年)その他、数学史の研究書にその名前を見ることができる。著者の野町も彼女の存在は気になっているようで、時代的には本書の対象外であるにもかかわらず、文献案内でいくらか触れている。なお、19世紀の文筆家キングスリーによるヒュパティアの伝記の翻訳ここ(まだ途中)で読むことができる。ありがたいことである。彼女についてはモミリアーノらさまざまな学者が筆をとっているようであるが、まとまった学術書として、Maria Dzielska, Hypatia of Alexandoria. Harvard UP 1995がある。

著者の作品として、
W・イェーガー(野町啓訳)『キリスト教とパイデイア』(筑摩書店 1964年)
野町啓『初期クリスト教とギリシア哲学』(創文社 1972年)
野町啓監訳『中世思想原典集成5 後期ラテン教父』(平凡社 1993年)
グッドイナフ(野町他訳)『アレクサンドリアのフィロン入門』(教文館 1994年)
アレクサンドリアのフィロン(野町啓・田子多津子訳)『世界の創造』(教文館 2007年)

などがある。私は暗い分野であるが、思想史としてはかなり重要なところを専攻されているように思う。



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