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新・現代歴史学の名著 [Historians & History]

新・現代歴史学の名著.jpg
樺山紘一編
新・現代歴史学の名著 普遍から多様へ
中公新書2050 2010年 xiii+272頁

はじめに(樺山紘一)

ニーダム『中国の科学と文明』(橋本敬造)
梅棹忠夫『文明の生態史観』 (樺山紘一)
ゲイ『ワイマール文化』 (亀嶋庸一)
ウォーラーステイン『近代世界システム』(川北稔)
ル・ロワ・ラデュリ『モンタイユー』 (渡邊昌美)
ギンズブルグ『チーズとうじ虫』 (杉山光信)
ル・ゴフ『もうひとつの中世のために』(加納修)
サイード『オリエンタリズム』(三浦徹)
網野善彦『無縁・公界・楽』 『日本中世の非農業民と天皇』(桜井英治)
アンダーソン『定本 想像の共同体』 (白石隆)
ブリッグス『イングランド社会史』 (青木康)
ノラ編『記憶の場』(谷川稔)
クールズ『ファロスの王国』(和泉ちえ)
オブライエン『帝国主義と工業化 1414-1974』(秋田茂)
コッカ『歴史と啓蒙』 (山井敏章)
メドヴェージェフ『1917年のロシア革命』(石井規衛)
ダワー『敗北を抱きしめて』 (三浦陽一)
速水融『近代移行期の人口と歴史』『近代移行期の家族と歴史』 (鬼頭宏)

* * * * * * * * * *

前著、樺山紘一編『現代歴史学の名著』は、1989年に刊行された。ベルリンの壁崩壊からソ連解体にいたる激動の時代の直前に編まれている。それから20年を経て刊行されたのが本書である。

正直申し上げて、新編は、以下に目次を掲載した旧編ほどのインパクトはない。岩波の世界史講座と同じである。本書の中で、歴史書として名著、つまり歴史家以外が読んでも読むことの喜びを得ることの出来る歴史書という見解に同意できるのは、『モンタイユー』、『チーズとうじ虫』、『無縁・公界・楽』、『敗北を抱きしめて』であろうか(メドヴェージェフとオブライエンは読んだことないので判断できない)。わたしが編んだならば本書とは別の本を推薦するだろう。

それで本書は旧版と何が違うのかなあと少し考えたのであるが、ひとつだけ確実に言えることがあった。旧版での選書は、いずれも、一冊の本として一つの世界を提示している、つまり歴史叙述として完成したものばかりであるのに対し、新版でのそれは、必ずしもそうではない点である。論文集の形態をとるもの(ルゴフ、ノラ、速水)、非歴史家の手になるもの(ウォーラーステイン、サイード、アンダーソン)、そもそも名著というにはインパクトが弱いもの(ゲイ、クールズ、コッカ)。これはなんだろう、旧版でいいものを出し切ってしまったからなのだろうか。

そのように考えてみると、本書の意義は一体何なのだろうか。思うに、本書は、歴史家樺山紘一の関心の変化を反映した資料である。構造主義の洗礼を受け、思想史家として出発した樺山は、その後、アナール派的社会史の日本への導入、日本史や東洋史との対話、構造史的観点からの世界史認識といった点において著作や発言をなしてきた。20年前の前著が『ゴシック世界の思想像』をひっさげて34歳で東京大学助教授となった新鋭の中世史家の関心の反映とするならば、本書は、それ以降の彼の関心の広がりを反映したものといえばよいのであろうか(それにしてはブルクハルトと宮崎市定がないのは不思議である)。

書評として面白かったのは、和泉による『ファロスの王国』。ケンブリッジで博士号を取得した和泉の筆は、ヨーロッパの古典学会からはほとんど黙殺されたにもかかわらず、なぜか日本とアメリカで評判を得た、フェミニズム史観丸出しの本書を、フェミニズム運動が席巻したアメリカ社会の中で生み出された現代性という観点から、なんとか評価しようと頑張っている。その無駄のない筆遣いは、先日読んだ古典学者の逸見の文章と重なるものがある。あまり日本人ぽくない、ということである。

ウォーラーステイン(川北)もアンダーソン(白石)も訳者による解説である。人文科学に携わるものなら、彼らの主張をどこかで耳にしたことはあるだろう。ただ一般に流布している主張はいい加減な読み方に基づくものであり、訳者は著者に代わって「きちんと読め」と叱責していた。ごもっとも。

紹介として模範的であるのは、ルゴフ(加納)と網野(桜井)。二人とも本書の執筆人のなかでは若手である。模範的である理由は明らかで、ひとつは編者からの執筆要求をきちんと守っていること、もうひとつは現役の研究者であること、である。

本書の価値とは全く関係ないが、ル・ロワ・ラデュリ(渡邊)の一節。「旧制度の大学予備門たる高等学校では英語とドイツ語が主たる外国語で、フランス語の学級を備える高等学校は全国で数えるほどしかなかった。…研究者がいないということは、大学や図書館にフランス中世史の基本図書がほとんど蓄積されていないということでもあった。戦後、子の分野への挑戦者が直面したのは、まず図書探しであった。今からは想像もできないが、購入はもとより、輸入にも制約があったし、複写は一般化していなかった」(68頁)。日本の西洋学の歴史を考える上で示唆的な風景である。

以下、前著の内容を記す。

津田左右吉『文学に現はれたる我が国民思想の研究』
ホイジンガ『中世の秋』
パウア『中世に生きる人々』
ヒンツェ『身分制議会の起源と発展』
チャイルド『文明の起源』
ピレンヌ『ヨーロッパ世界の誕生』
ブロック『封建社会』
ルフェーヴル『1789年 フランス革命序論』
ブルンナー『ラントとヘルシャフト』
大塚久雄『近代欧州経済史序説』
高橋幸八郎『市民革命の構造』
石母田正『中世的世界の形成』
コリングウッド『歴史の観念』
ブローデル『フェリペ2世時代の地中海と地中海世界』
カー『ボリシェヴィキ革命』『一国社会主義』
エリクソン『青年ルター』
ホブズボーム『反抗の原初形態』
テイラー『第二次世界大戦の起源』
フーコー『言葉と物』
ヴェントゥーリ『啓豪のユートピアと改革』
ウィリアムズ『コロンブスからカストロまで』

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