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地上の夢 キリスト教帝国 [Early Middle Ages]

地上の夢 キリスト教帝国.gif
五十嵐修
地上の夢 キリスト教帝国 カール大帝の〈ヨーロッパ
講談社選書メチエ224 2001年 238頁

プロローグ
第1章 カロリング家の王権
第2章 キリスト教社会拡大への果てしなき戦い
第3章 ラテン語で結ばれる知のネットワーク
第4章 「旅の王権」と「首都」アーヘン
第5章 西方キリスト教世界の指導者
第6章 皇帝戴冠 〈ヨーロッパ〉誕生
第7章 神の国の建設
エピローグ

カール大帝関連略年表
あとがき
主要参考文献
索引

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急逝した著者によるカール大帝伝。著者の長年の教育経験に基づく著作だからであろう、大変読みやすい。同じメチエでも先だってのサントリー学芸賞とは大違いである。

これだけ著名な人物でありながら、カール大帝に関する書物は、ジャック・ブーサール『シャルルマーニュの時代』(平凡社)とロベール・フォルツ『シャルルマーニュの戴冠』(白水社)くらいしかない。いずれもフランス中世史家による名著であるが絶版。ちなみに本書も絶版。

地上の夢=神の国=教会国家としてのフランク帝国という考えは、とくに目新しいものではない。日本でも、中世史家ならば誰でも読んでいるであろう山田欣吾の著名な論文によって、人口に膾炙した感はある。ただし、議論は、フランク国家はキリスト教世界として見立てられておりました、で終わってはつまらない。そうであったとして、単に蛮族国家でもなければローマ帝国の後継国家でもなく、教会(ecclesia)として見立てられたフランク帝国は、具体的にどのように経営されていたのかが問われねばならない。五十嵐はガンスホフやヴェルナーの研究を導き手として、非効率的という近代的価値判断に反駁しようとしているが…。研究蓄積が厚い分野とはいえ、行政史についてもできることはまだまだありそうである。

カール大帝の軍隊についての研究は少なからずあるが、彼が対デーン人のために創設した海軍に関する研究はみたことがない。そもそもフランク王国の戦闘用艦船って、どんなかたちをしていたのだろうか。

社会経済史全盛の頃、人物史はあえて避けられていたような気がする。ひとつには、個人の資質や偶発的な事件に歴史の変動を還元させることに違和感のある向きが多かったのであろう。ブローデルではないけれども、事件は歴史の表層と見なされ、それを支える社会構造の分析に多くの才能が投下された。その方向性は正しいというか、いったんは潜り抜けなければならなかったのだと思う。社会構造を知るということは、ある人物やある事件のおかれたコンテクストを知るということであり、コンテクストを知らなければ歴史学は立ち行かない。

だがしかし、人物や事件抜きに、過去の世界に関心をもつことなどできるのだろうか。「ラティフンディウムが解体し…」であるとか「産業革命によって大量生産が可能となり…」といったフレーズは高校の教科書にもあるけれど、たとえば、カエサル、コンスタンティヌス、カール大帝、フリードリヒ2世、ナポレオンといった名前のない、また名前があったとしても、彼らがどのような人生を送ってきたのかわからない「歴史」など想像できるだろうか。人物史は、西洋史の分野においても、もう少し充実してもよいように感じている。

なお著者の博士論文を基にしたと思われる遺稿集は近々知泉書館より刊行予定である。

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