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ロマネスクの宇宙 [Arts & Industry]

ロマネスクの宇宙.jpg
金沢百枝
ロマネスクの宇宙 ジローナの《天地創造の刺繍布》を読む
東京大学出版会 2008年 426頁

 序 論
第1章 宇宙図としての刺繍布 時間の円環と地の果ての風
第2章 礼讃図としての刺繍布 万物による創造主礼讃
第3章 礼讃図の二匹の海獣 ケートスの系譜とドラゴンの誕生
第4章 新しい礼讃図の生成 「天地創造型マイエスタス」と瞬間的創造
第5章 約束された楽園 「聖十字架発見譚」の役割と意義
第6章 《天地創造の刺繍布》をめぐる諸問題
結 論

* * * * * * * * * *

カタルーニャのジローナに残された巨大な刺繍布をめぐる著作。著者は現在東海大学文学部の准教授。本書の内容については村上司樹が適切な要約と批判を試みているので、ここではあえて繰り返さない。その代わり、本書は専門書の書評の在り方を考えるのにちょうどよい位置にあるので、そこを少し考えてみたい。

本書に関する一定分量を伴った評言は次の三つがある。
小澤実『UP』436号(2009年)10-16頁
村上司樹『史学雑誌』118編6号(2009年)1210-19頁
安發和彰『地中海学研究』32号(2009年)83-88頁

このほかにも、私の知る限り、『芸術新潮』や『みすず』といった一般読書人向けの雑誌にも、短い紹介はなされた。

『ロマネスクの宇宙』は、せまい意味では美術史書であるため、第一に中世美術史の専門家に向けて書かれたものである。しかしながら本書を一読すれば明らかなように、本書の分析対象は刺繍布という狭い意味で「美術品」でありながら、その分析の手法は、ただ、美術史学の枠内で馴染んできた図像学や図像解釈学にのみ訴えているわけではなく、その背景にある来世や時間をめぐる思想史的な文脈であるとか、社会における機能や作り手といった一般史的な場所にまで降り立とうとしている。その試みが成功しているかどうかを測りうるのは、美術史家というよりもむしろ思想史家や一般史家である。

そういった点において、『ロマネスクの宇宙』は恵まれていたと言える。美術史家、スペイン中世史家、中世史家がそれぞれ別の視点から評の筆をとったからである。、まずは北欧中世史家の小澤が東京大学出版会のPR誌『UP』で、次にスペイン中世史家の村上が一般史家向けの『史学雑誌』で、最後にスペイン中世美術の専門家安發が『地中海学研究』で、試みた。書評とは著者との対話であると同時に読者との対話でもある。だから書評者は、掲載される媒体がどのような読者をもっているのかを勘案して評を書かねばならない。『UP』は非専門家に、『史学雑誌』は一般史家に、『地中海学研究』は地中海専門家/愛好者を意識して、文章がしたためられているはずである。…正直申し上げてこの三本の評の中で最もよく書けているのは村上のものである。

個人的に、『ロマネスクの宇宙』は、美術史学会の機関誌『美術史学』において評されるべきだと思っていたが、驚くべきことに当該雑誌には書評欄がない。私のような門外漢からしても、本書に限らず、美術史の分野で読みたいと思わせる研究書はかなり出版されている。書評は、対象書に何が書かれてあるのかを知るもっとも手っ取り早い手段である。だからなんで?と思ってしまう。…ただし、書評をするという行為は、書評者に多大な負担を要求するし、書いた内容によっては後々まで尾を引くことも確かなので、気軽に出来るものでもない。


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