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幻想の古代史 [Intellectual History]

幻想の古代史.jpg
ケネス・フィダー(福岡洋一訳)
幻想の古代史(上)(下)
楽工社 2009年 343+342頁

まえがき
クイック・スタートガイド
第1章 科学と疑似科学
第2章 認識論 何かを知っているとはどういうことか
第3章 考古学における捏造の構造
第4章 ドーソンのドーン・マン ピルトダウン事件
第5章 アメリカを発見したのは誰か
第6章 マウンドビルダーをめぐる神話
第7章 ロスト 失われた大陸(以下下巻)
第8章 先史時代のE.T. 「古代の宇宙飛行士」幻想
第9章 謎に包まれたエジプト
第10章 グッド・バイブレーションズ 超能力者とダウザー
第11章 古い宗教とニューエイジのビジョン
第12章 本当の過去、真の謎

参考文献・邦訳文献
索引

Kenneth L. Fider
Frauds, myths, and mysteries. Science and pseudoscience in archaeology
1990

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宇宙人とかアトランティスとかノアの箱舟とかオーパーツとか好きな人向け。

2巻本でページ数からすれば長大であるが、かなり面白い。いわゆる偽史・偽科学の研究書である。500を越える参考文献もきちんと掲載されており、専門家の批判にも耐えうる。かって損はしないはず。著者はアメリカの考古学者で、大学の入門書として書いている。各章の最後には「批判的に考えるための問題」というテスト問題がある。アメリカらしい教育的配慮の行き届いた本である。毎日新聞にスクープされた日本のゴッドハンドも取り上げられている。

どの章でも強調されているのは、「考古学的文脈」の重要性である。考古学遺物は、ただそれだけで意味を持つのではなく、それが発見された文脈を無視しては解釈できないとする。ニューハンプシャー州ノース・セーレムには石造構造物が多数あり、ミステリー・ヒルあるいはアメリカのストーンヘッジと(一部の人から)呼ばれている。所有者によれば、古代ケルト人の遺構らしい。彼らの生活を示す遺物は一向に発見されていないにもかかわらず、である。そのような考古学的文脈を無視して解釈を進めると、19世紀のアメリカで石鹸を作るための石台が、古代ケルト説をとる「研究者」のフィルターを通せば、生贄を捧げる宗教的遺物へと変換される。

著者がアメリカ考古学の専門家であるだけに、アメリカの事例が多い。ヨーロッパに関心のある人は、読み飛ばすかもしれないが、実はこれはヨーロッパ史とも深く関わる問題である。というのも、わたしたちがほとんど無意識的に「アメリカは若い国である」と思い込んでいるが、それはただアメリカにヨーロッパ人が定着したのがたかだか500年前にすぎないのであって、それ以前から先住民は歴史を作り上げていたからである。第6章のマウンド・ビルダー文化に関する記述を読めばよくわかる。わたしが高校で教えられた世界史では、アメリカの歴史など、コロンブスの「発見」のあとは、独立宣言と南北戦争へ飛んでいた。このような見方が「アメリカは若い」とか「アメリカには歴史がない」といった偏見を生むのであり、また、よしんば先住民の文化を射程に入れたとしても、ヨーロッパ人の侵入以前と以後の歴史に区別してアメリカ像をつくりあげようとするのではないかと感じている。

ところで「幻想の古代史」という邦訳で良いのだろうか。よい内容であるにもかかわらず、これではトンデモ本に間違えられるんじゃないだろうか。聞いたことのない出版社だったので調べてみると、「と学会」の本をたくさん出していた。なるほど。たま出版とは対極的な位置にある出版社。


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