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Signposts to the past [Literature & Philology]

Signposts to the past.jpg
Margaret Gelling
Signposts to the past. Place-names and the history of England, 3 ed.
Chichester: Phillmore 1997, 281 p.

List of maps
Abbreviations

Introduction
1. The languages
2. tge place-names of Roman Britain
3. Latin words in English place-names
4. The Celtic survival
5. The chronology of English place-names
6. Place-names and the archaeologist
7. Personal names in place-names
8. Boundaries and meeting places
9. Scandinavian and French place-names

Introductory note to second edition
Addenda
Bibliography
Index

* * * * * * * * * *

著者のマーガレット・ゲリングは1924年生まれ。今年なくなった。大学のポストを得ることはなかったが、オックスフォードやブリティッシュ・アカデミーにフェローの地位を得ている。イギリスの地名学では傑出した存在である。

日本ではほとんど馴染みがないが、ヨーロッパでは地名学と人名学が学問分野として確立している。確立しているといっても、歴史学や哲学のように19世紀からあったわけではなく、20世紀に入り、言語史の一分野として独立した。地名や人名を歴史文献から収集し、そのコーパスを元に分析する学問である。こちらに「固有名詞学」として独立した章が設けられている。ドイツが中心であるが、私見によれば、イギリスのほうが方法論的にもコーパス的にも先に進んでいるように思う。いわゆる英語だけでなく、北欧語、フランス語、ケルト諸語、ラテン語とその担い手たちの歴史が複雑に入り混じっているからでしょう。ラテンとゲルマンの混交という観点の大陸にくらべれば、研究のしがいがあるというものだ。

そのイギリスでは、1923年、英国地名協会(The English Place Name Society)が産声を上げた。創設メンバーにはかのフランク・ステントン卿も名を連ねる。現在はノッティンガム大学の地名学研究所に本部を置くこの協会は、イギリスの各カウンティごとの地名事典を刊行し続けている。刊行自体はほとんど終わりに近づいたのではないかと思うが、どの巻もまだ入手可能である。日本でそろえているところってあるのかね。慶應くらいは全部持っているのかね。コペンハーゲンの古書市ではいつも捨て値で売ってたけど。

ステントン以来、イギリスに到来した北欧人の研究は、地名学と不可分の関係を築いてきた。「by」という語尾のある地名はすべて北欧由来であるという原則のもと、マッピングが図られた。その地図を目にすると確かにいわゆるデーンローと呼ばれる地域は、「by」地名でいっぱいとなる。それにくわえて、当該地域はイギリス南部と計量単位なども異なる。これをもってデーンローは北欧人の「国」との了解が得られていたわけである。しかし近年の研究はかつての見解の相対化を図っている。中心にいるのはドーン・ハドリ。北欧人は結局エリート層にしか所属せず、イギリス社会を根本的に変えたとするのは間違いである。社会構造が北と南で異なるのは、北欧人のせいではなく、それ以前の時代からあったとの議論。

初期イギリスの地名学に関心のある向きは、まず次の長尺の論文を手にすべき。エイブラムズは北欧史の専門化、パーソンズは地名学研究所の所長。
Abrams, Lesley & David N. Parsons, "Place-names and the history of Scandinavian settlement in England." John Hines, Alan Lane and Mark Redknap(eds.), Land, sea and home. Proceedings of a conference on Viking-period settlement, at Cardiff, July 2001, London: Maney, 2004, pp. 379-431.

英語史の翻訳は山のようにあるが、地名学の研究は日本にほとんど紹介されていない。本書など、研究書でありながら一般性も高いので教養読者層にはうってつけである。歴史家に本書の翻訳は難しいので、英語学の方にぜひやってほしい。

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