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西洋中世学入門 [Reference & Dictionary]

西洋中世学入門.jpg
高山博・池上俊一編
西洋中世学入門
東京大学出版会 2005年 v+396頁

序論 西洋中世学の世界(高山博・池上俊一)

第一部 西洋中世研究に必要な技術と知識
第1章 古書体学・古書冊学(千葉敏之・岡崎敦)
第2章 文書形式学(岡崎敦)
第3章 碑文学(岡崎敦)
第4章 暦学(池上俊一)
第5章 度量衡学(山田雅彦)
第6章 古銭学(城戸照子)
第7章 印章学・紋章学(岡崎敦)
第8章 固有名詞学(千葉敏之)
第9章 歴史図像学(小池寿子)
第10章 中世考古学(堀越宏一)

第二部 西洋中世社会を読み解くための史料
第11章 統治・行政文書(佐藤彰一)
第12章 法典・法集成(直江真一)
第13章 叙述史料(有光秀行)
第14章 私文書(徳橋曜)
第15章 教会文書(甚野尚志・印出忠夫)

アペンディクス
第一部
第二部

* * * * * * * * * *

歴史家というのは、その研究時間の半分以上、史料を見てあーとかうーとか言っているものである。私はそう思っているのだが違うのかな。

ともかく、西洋中世の史料を扱うにはどうすべきかという、非常に基礎的ながら不可欠の問題を知る唯一の邦書。それを「中世学 Medieval Studies」というのかどうかはしらない。かつてであれば第一部を「補助学」、第二部を「史料学」と言った。編者が一般史家ゆえ、一般史家にとっての構成となっている。対象は修士課程の学生なのかもしれないが、本来西洋中世で卒論を書くものは目を通しておくべきである。もちろん全部をわかる必要はない。しかし歴史学とは本来的に史料研究がその土台であるということは、いくら西洋史という輸入学問であろうとも、共通認識でなければならない。個人的な白眉は第5章の度量衡学。著者の研究経験が短い紙数にふんだんに盛り込まれている。

このような史料学は、なぜか西洋中世の独壇場となっている感がある。もちろんそれは、ヨーロッパにはロレンツォ・ヴァラのような人文学者以来の精密な読解作法の歴史があるからだが、日本史や東洋史は史料そのものから入っていく場合が多いので、わざわざ史料学などと別項目で論じる場が必要なかったというのもある。しかし、『日英中世史料論』を見る限り、日本とイギリスとの間にすら様々な懸隔があることがわかっている。比較という言葉が盛んに使われるが、正確な比較は共通の判別基準があってはじめて成立する。西洋に限定されない歴史史料学を今後展開したければ、『日英中世史料論』が提起するように、共通の学術言語を準備するところからはじめなければならない。

最近、西洋中世に限らない方から史料の現状を教えてもらうにつけ、西洋がいかに特殊な史料状況にあるのかがわかってきた。国王証書という最も基礎的な行政文書は、西洋や日本に特有のものであり、イスラム圏にはほとんど残っていない。そうすると西洋を基準とした行政システムのモデルはイスラム圏では成立しないことになる。あれだけ盛んに論じられたアッバース朝の統治構造など、いまだに謎らしい。またイスラム圏での交易を論じようと思えば、旅行記のようなものしか手がかりにならないそうだ。イタリアやスペインのような涙が出るような立派な史料の伝存状況は、それ自体が奇跡のようなものであったということである。

なお通読した感想を言わしてもらえば、各章の書式や割り振られたページ数等があまりにばらばらである。さほどの量ではない分担執筆にもかかわらず、原稿依頼から完成まで結構な時間がかかっているがゆえに、最初提出した原稿とそうでないものとの間が大きすぎる。そのような場合、提出の早い著者にはもう一度増補をしてもらうのが筋だとわたしは思うが。

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