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フィンランドの歴史 [Medieval Finland]

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デイヴィッド・カービー(百瀬宏・石野裕子監訳)
フィンランドの歴史
明石書店 2008年 458頁

日本の読者への挨拶
序文

第1章 中世の辺境地方として
第2章 スウェーデンの遺産
第3章 ストックホルムからサンクト・ペテルブルクへ(1780-1860年)
第4章 萌芽期の国家(1860-1907年)
第5章 独立国家(1907-39年)
第6章 戦争と平和(1939-56年)
第7章 ケッコネンの時代(1956-81年)
第8章 国民国家からユーロステートへ

監訳者あとがき
年表
歴代大統領
選挙と内閣
参考文献
索引

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以前ここで翻訳を出すべきだといったが、あっという間に出てしまった。プロの翻訳者+専門家のチェックという、もっとも早い手法をとったためである。本書が刊行された瞬間、明石が創土社よりも早く版権を取ったらしい。もちろん私のエントリなど全く関係ない。5000円とやすくはないが、フィンランドの歴史に関心を持つものは必読である。

しつこく申し上げるが、フィンランドという地理的空間に中世はあったが、それはスウェーデン王国の一部としての中世である。したがって、いくらフィンランド語をやったところで、フィンランド中世史はできません。フィン人がいたことは確かだが、フィン人は何も文書を残していない。歴史学は万能の学ではなく、証明できないテーマは研究対象とはならない。最近では、フィンランド語による中世史研究も増えてきているようだが、読めないから勘弁してくれ。若手研究者の皆様、せめてスウェーデン語(フィンランドのもう一つの公用語)、できれば英語で書いてください。多分フィンランド人(とエストニア人)以外読めないから。

著者のカービーはフィンランド現代史の専門家。非フィンランド圏を代表するフィンランド史家である。フィンランド史だけではなく、北ヨーロッパの近現代史全般に造詣が深く、2巻本で近代以降の北ヨーロッパの政治通史も刊行している。ソ連を背後に控えた20世紀フィンランドの政治的立場は微妙であり、言ってしまえばソ連の顔色を伺いながらの独立であった。「Finlandization」という造語は、そのような歴史的背景を勘案しなければわからない。このような時期を経験しただけに、フィンランド人によるフィンランド史は独特の「ゆがみ」をもつ。同様の歴史叙述上の「ゆがみ」は、バルト三国にも、南北朝鮮にも、カナダにもあるだろう。大国の影で生きざるを得ない国家の悲哀といってしまえば簡単だが、それゆえに歴史叙述の「当事者性」は問題となる。カービーはそういった意味で外国人である。あ、前近代史には何の関係もありませんよ。前近代史で「当事者性」が云々とかいっている人は、ちょっとどこかおかしいです。

なお北欧五カ国のなかで、日本語で読めるきちんとした通史を持っているのは、本書の刊行されたフィンランドだけである。そのほかの四カ国にいたっては、これを読みなさいと推薦できるものが残念ながら一冊もない。残り四カ国についても、本書と同じ程度のボリュームをもつ基本書の翻訳がなされるべきであろう。でなければ、いつまでたっても北欧史について間違った知識が蔓延することになるだろう。

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