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フランク人の事績 第一回十字軍年代記 [Sources in Latin]

フランク人の事績.jpg
レーモン・ダジール/フーシェ・ド・シャルトル他(丑田弘忍訳)
フランク人の事績 第一回十字軍年代記
鳥影社 2008年 495+xii頁

作者不詳『フランク人および他のエルサレムへの巡礼者の事績』
レーモン・ダジール(ダグレー)『エルサレムを占領したフランク人の物語』
フーシェ・ド・シャルトル『エルサレムへの巡礼者の物語』

主な登場人物
第一回十字軍年代順事項表
地図、兵器類
訳者あとがき
索引

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古典古代の翻訳は数あれど、中世ラテンの翻訳は驚くほど僅かしかないので、こういう仕事はとてもありがたい。歴史家が中世ラテンの翻訳の筆を取ることはめったにないので、いきおい文学者の仕事となる。しかし日本には中世ラテンの専門家はいないんだよねえ。東京と京都くらいにはポストを置けばいいのに。

第一回十字軍の記録として代表的な三つの作品である。一部かつて紀要に掲載されていたものを読んだことがある。訳文は読みやすい。むしろ読みやすすぎて、少し心配になる。攻城戦の模様などとても興味深く、軍事社会史に関心のあるものにとってはとても興味ある記述だろう。訳注は必要最小限しかないが、歴史家が解説で背景を記せばよかったかもしれない。

日本で十字軍の研究は必ずしも十分な量があるわけではない。少ししっかりした内容が欲しいとき、どうしても橋口倫介の新書にさかのぼってしまう。とはいえ、本場ヨーロッパでは研究がどんどん進展し、いまや十字軍専門の学会や雑誌すらあるし、大部の十字軍事典も複数の出版社から立て続けに刊行された。ライリー=スミスやホイスリの翻訳されない現状は、いささか異常かとも思う。きちんとした研究が伝えられていないがゆえに、いつまでも半世紀以上前の研究成果を引用しながら、キリスト教/イスラムの二項対立的な発想を丸出しにする社会科学者が跋扈するわけである。

十字軍は西洋にとって負の歴史と捉える向きが多い。しかし負の歴史を怯えるがゆえに向き合わなければ、大切なものを見失ってしまう。道徳的な善悪はおくとして、十字軍は、中世ヨーロッパの拡大運動の一局面であり、宗教的高揚の発露である。ルゴフは十字軍を毛嫌いしたが、彼の見方よりもバートレットの社会学的布置の仕方が、学問的にはより生産的である。免罪をしろとは言わぬ。しかし理解は必要である。

鳥影社は時折聞く名前だったが、奥付をみると長野県諏訪市である。信州は岩波と筑摩を生んだ風土。本書がどのようないきさつで刊行と相成ったかはわからないが、英断である。そんなに売れる本とも思われないが、十年かけて完売するという意気込みだろうか。

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