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西洋の誕生 [Arts & Industry]

西洋の誕生.jpg
柳宗玄
西洋の誕生
新潮社 1971年 293+vii頁

まえがき
太陽神キリスト
聖樹より十字架へ
幻の「木の文化」
生命の泉
水に生きるもの
死者の舟・生者の舟
羊の国にて
巨石の伝統
山岳信仰の流れ
十字文の世界
なぞの組紐文
聖母の誕生
古代彫刻の終焉
不肖の像
あとがき

* * * * * * * * * *

トヨタ県の古書市は、神田と違ってささやかで、あまり面白くなかった。そこで目に付いて購入したのが本書。1000円也。

正直、読んで目からうろこが落ちた。かつて『芸術新潮』に一年にわたって連載されたエッセイにいくらか付け足して体裁を整えた初期中世美術論である。といっても通常の美術史のように、様式論できっていくわけではない。絵画、彫刻、建築という「大芸術」を正面から組み敷くのではなく、そこに漂うささやかな異教の匂いを嗅ぎ取り、小品にまとめている。テーマは素材であったり、場所であったり、色であったり、地名であったり、装飾であったりと様々である。初期キリスト教時代からロマネスク期にいたるまでの初期中世が、いかに非キリスト教的要素で構成されていたのかを、体験を交えたとても美しい文章で綴る。

やや象徴論に過重に傾いているところがあるようにも思えるが、それでも初期中世世界(ここではビザンツも含める)を、ただただキリスト教の拡大=勝利という観点から論じることにブレーキをかけるだけの内容である。それもキリスト教対異教という単純な図式ではなく、ヨーロッパ半島に住まう人たちの歴史と生活に根ざした心性から論じあげている点で、異色である。ヨーロッパにも類書はひょっとするとないかもしれない。スカンディナヴィアの船葬についても少し触れてあった。柳の本は昔小さいものを幾つか読んだことがあるが、当時は彼の議論の価値に気づかなかった。物の価値を知らないというのは不幸なことである。

著者は1917年生まれだが、まだまだ健在のようである。名前から容易に想像がつくように、民芸に価値を付与した柳宗悦の次男である。私は1971年版の古書を入手したが、近年八坂書房から撰集が刊行されつつあり、本書もそこに収められている。編集はもちろん八尾睦巳氏。この希代の編集者に見出されたがゆえに、柳の中世美術論は、今後とも命脈を保ち続けるであろう。私も買い揃えようと思った。

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