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A Concise History of Finland [Medieval Finland]


David G. Kirby
A Concise History of Finland(Cambridge Concise Histories).
Cambridge: Cambridge UP, 2006, 343 p.

Preface

1. A medieval marchland
2. The Swedish legacy
3. From Stockholm to St Petersburg, 1780–1860
4. The embryonic state, 1860–1907
5. The independent state, 1907–1937
6. War and peace, 1939–1956
7. The Kekkonen era, 1956–1981
8. From nation-state to Eurostate

Key dates
Presidents of Finland
Elections and governments
Guide to further reading

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北欧中世の梗概を人に説明する場合、その位置づけに苦労するのがフィンランドである。フィンランドが国家たりえたのは、1917年にロシアから独立して以来であり、それ以前はロシア帝国の大公国(1809-1917)であった。では19世紀以前はどうであったかというと、中世以来スウェーデンの一部であり、従って、スウェーデンの一領邦とみなすのが、歴史学的には妥当である。つまり、中世フィンランド史とは、中世スウェーデン史の一地方史であると考えるのがええやろと思うのだが、それを現在のフィンランド国民がどう受け止めるのかは、また別の問題である。

表紙の色が本ブログとマッチする本書の著者デヴィッド・カービーは、説明も不要なほどの著名人である。現在ロンドン大学で教鞭をとり、フィンランド近現代史を狭義の専門とするが、その視野は広く、バルト海史、さらには北方ヨーロッパ史まで含めた通史を執筆している。来日経験もあり、私は学部の頃、彼のレクチャーを拝聴した。当時は自分が北欧史を専攻するなどと思ってはいなかったが。
David Kirby, Northern Europe in the early modern period : the Baltic world, 1492-1772. London: Longman, 1990, xii+443 p.
David Kirby, The Baltic world 1772-1993: Europe's northern periphery in an age of change. London: Longman, 1995, viii+472 p.

ブローデルのいる地中海と異なり、北海とバルト海の通史は、なかなか書き手が現れなかったのだが、このカービーの二巻本が、現在の基本著となる。ただし、いずれも原則として政治史であり、文化や社会システムの内奥に分け入るというよりも、どちらかといえば淡々とした叙述であるので、通読は根気がいる。私は途中で諦めて、必要なときに事典がわりにしている。

中世にあてられているのは、たった一章、29頁だけである。カービーの専門ではないので、近年の研究をまとめたに過ぎないが、ロバート・バートレットの議論を引きながら、辺境という視点からフィンランドという場を再解釈している点で、読む価値はあろう。私自身、言語的な問題もあって、フィンランドでの中世研究をしっかりと跡付けたことはないのだが、スウェーデンとロシアの狭間にあるフィンランドという場は、エストニア、ラトヴィア、リトアニアという現在のバルト三国が並ぶ地域とともに、東スラヴ世界への扉口であった。スウェーデンへの帰属が明確になるのは、1323年のノーテボリ和約である。両国をめぐる周辺諸国との政治的駆け引きの産物であるこの和約により、スウェーデン王マグヌス・エーリクソンとノヴゴロド候ユーリとの間に、緩衝地であるカレリアを二分し、ボスニア湾からフィンランド湾にいたる線引きが締結された。どの程度の史料が残っているのかわからないが、そのうち下調べはしたいと思う。

日本では、フィンランドの現代史に関しては、百瀬宏ら先人の努力があって、比較的よく知られている。
百瀬宏『東・北欧外交史序説 ソ連=フィンランド関係の研究』(福村出版 1970), iv+340頁
百瀬宏『北欧現代史』(山川出版社 1980), 352頁
マルッティ・ハイキオ(藪長千乃訳)『フィンランド現代政治史』(早稲田大学出版部 2003), viii+196頁

が、近代以前となると、まだ研究者も少なく、一般どころか歴史学界にも情報は行き渡っていないように思える。そういった意味でも、中世から現代まで通覧している本書は翻訳されるべきである。頁数も、多すぎもせず、少なすぎもせず、ちょうどよい。このケンブリッジのシリーズは、創土社から何冊か公になっているが、本書もぜひ加えて欲しい。その際に一点留保がある。他の訳書がどうであるのか知らないが、訳文のチェックには必ず歴史家の参加が必要である。フィンランドというなじみの薄い言語圏を対象としている上に、前近代史には特有の歴史用語があり、その歴史用語には苦闘の末に生み出された訳語があるからである。以前のエントリにも書いたが、これがあるかないかで、その訳書が長年使われるものになるか、国民の知性を貶めるものになるかが分かれる。専門家のチェックをかますという、ちょっとした労力を省いたせいで、どれほどの良書が不適切訳となり、図書館の書架を飾っていることか。原著に馴染んだものにとって、悲しいものである。


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